made in "MOKA"
Nruc × SANO KIKO
STORY FROM ENCOUNTER TO PRODUCTION
アウトドアにおけるチタンやアルミ・ステンレス製のコッヘル、カトラリーは今や溢れている。
そしてその殆どがメイドイン燕三条。それは燕三条という信用がブランド化したひとつの到達点。
れなく私も「銅製の武器を燕三条で作ってもらおうかな…。」なんて数年前から考えていた。
ただ、ひとつの疑問もあった。
「もっと近場で、なんなら県内で、同じクオリティで作れる工場が実はあるのでは…。」
その行く先は、Nrucから派生する地域貢献・町おこし。
それは真岡市というひとつの地域に根付いたブランドとして見据える次の新機軸。
そんな妄想から始まった、銅製ギアの可能性を探るプロジェクトのはじまりの話。
ある日、NRUC NESTにひとりのお客様がやってくる。おそらくその日が2回目のご来店。前回も少しお話したので、その人がかなりの山ギアマニアだという事は覚えていた。そんな彼が某ブランドのコッヘルを眺めながら呟いたのを私は聞き逃さなかった。「こういうの、やろうとすればウチでも作れるんですけどね…。」ちょっと待ってください何の話ですかと、私はグイグイ問い詰めた。これがすべての始まり。
Nrucと同じ真岡市には、栃木県が誇る大きな工業団地がある。その入口に佇む「佐野機工」で開発担当として勤めているのがそのギアマニアでもあるO氏だった。主に自動車の小物部品の開発製造を行う小さな工場で、同時に銅材の難しいプレス加工に絶対的自信を持つ、まさに一番欲していた出会いだったのだ。
私の理想を話すとO氏はすぐに賛同してくれた。佐野機工の営業担当・K氏を交え、すぐに話し合いは始まった。
O氏と私はお互いギアマニアだからか、こちらが思い描いているものをすぐに理解してくれて、イメージの共有に手こずる事は一切無かった。
とはいえ、自動車部品の開発製造を行う企業だけに、とにかく正確性や強度に対する思いは強く、こちらが「いや、そこは拘らなくていい」と言っても「いや!」という感じで、私が想像していたよりも遥かにハイクオリティなモノが出来上がった。その名刺替わりとなる最初のアイテムがガスカートリッジカバーである。
佐野機工さんとしてはアウトドア系のギア製作は初めてで、ゼロからの試行錯誤。正直なところウチのような弱小ブランド持ち込みのチャレンジなんてニッチ過ぎるし全然お金にならない生産ロットにも関わらず、今までやった事がない技術面での財産を得るという大義名分だけで引き受けてくれた事には感謝しかない。だからこそ、依頼側の私だけでなく、双方が納得のいくモノを全力で開発してもらいたいので、あえて納期は設定していない。その分ユーザーの皆様にはお待ち頂く事にはなるが、Nrucしか考えないようなモノを順番にトライして頂いているので今後も是非楽しみにしていてほしい。
なぜ「銅」なのか。という話をしなくてはならないだろう。
普通、山のブランドであればこのカテゴリーはより軽さを求めるチタン、若しくは軽さとコスパを求めるアルミに落ち着く。キャンプであればよりヘビーデューティーなステンといったところだ。では銅の良さは何か。真っ先に思いつくものは熱伝導率の高さ。これはアルミやチタンよりも高い。もうひとつは抗菌作用を含んでいる事。これは現代にマッチするメリットだ。ただ、薄くしすぎると耐久性は大きく劣り、最低限の耐久性を維持させる厚みにすると一際重く、登山要素に上手く合致させる事が難しい。尚且つコストも高い。そして多くのメーカーがこのカテゴリーで銅を避ける大きな理由が「他の素材と比べて加工が難しいからではないか」タッグを組んでいる佐野機工の開発O氏はそう推察している。言わずもがな、その難儀な銅の加工技術を持ち合わせているのが同社の強みだ。
さて、Nrucはなぜ銅なのか、という本題。
(ここまで色々書いておいてなんだが…)正直なところ前述した機能性はあまり重視していない。我々が狙ったのは「他の素材よりも高貴な演出が出来る」その事である。Nrucのモットーのひとつに「登山者たる者、紳士であれ。」という謳い文句がある。視覚的にその紳士度をアピールできる素材、それが私たちの銅という選択。
そしてもうひとつの所以が、”経年変化”という一種のロマンを体感出来る事。ピカピカの銅が少しずつ燻み、気がつけば10円玉のような使い込まれた質感へと変わる。私が個人的に使い込んだカートリッジカバーは10円玉どころか、野球グラブのようななんとも言えないマット過ぎる質感へと変化を遂げている。そんな、自身の手で”育てる”愉しさを味わう事が出来るのが銅の面白さではないだろうか。そこが少し、我々の”ものづくり”的な嗜好とリンクするかもしれない。そんな思いを込めて、このプロジェクトを皆様に提供していければと考えている。